漁業の特徴と代表企業・注目企業の紹介|陸上養殖に注目

日本は四方を海に囲まれ、豊かな水産資源を有する国として、古くから漁業が盛んでした。

近年では、天然資源の減少や環境問題への対応として、水産養殖業の重要性が増しています。

総務省が管理する日本標準産業分類において、大分類の「漁業」は、中分類の「漁業」と「水産養殖業」に分けられています。

ここでは中分類の漁業と水産養殖業に分け、それぞれの特徴、そして日本における代表的な企業について詳しく解説します。

漁業の特徴

漁業の分類

漁業は主に以下のように分類されます。

沿岸漁業

海岸から比較的近い海域で行われる漁業で、小規模な船舶や伝統的な漁法が用いられます。地域密着型で、地元の消費者向けの新鮮な魚介類を供給する役割を担っています。

沖合漁業

沿岸から離れた海域で行われ、中型の船舶を使用します。漁獲量が多く、国内市場への供給源として重要です。

遠洋漁業

国境を越えて世界中の海域で行われる大規模な漁業で、高度な設備を持った大型船舶が用いられます。主に輸出向けや国内の大量消費地向けに供給されます。

漁業の現状と課題

日本の漁業生産量は、過去数十年間で減少傾向にあります。

これは、中国や台湾、韓国などの乱獲の影響、環境変動、海洋汚染などが原因とされています。

特に、主要な漁獲物であるサバやサンマの漁獲量が大幅に減少しており、業界全体だけではなく、国際的枠組みでの持続可能な資源管理が求められています。

水産養殖業の特徴

水産養殖業とは

水産養殖業は、魚類、甲殻類、貝類、海藻などの水生生物を人工的に育成・生産する産業です。

天然資源の枯渇や需要の増加に対応するため、近年は重要性が高まっています。

養殖の種類

海面養殖

海上で行われる養殖で、ブリ、マダイ、カキなどが代表的な養殖対象です。海の自然環境を利用するため、広いスペースが必要ですが、自然の潮流や水質を活用できます。

陸上養殖

陸上に設置された人工的な水槽や池で行われる養殖で、サーモンやウナギなどが対象となります。水質や温度を管理しやすく、病気の予防や成長管理が容易です。

水産養殖業の現状と課題

年々、養殖の生産量が増加しており、全体の約半分が養殖になっているものの、養殖業界全体では成長がやや停滞しており、技術革新や新たな養殖システムの導入が求められています。

また、環境負荷の低減や持続可能な生産体制の構築も重要な課題といえそうです。

漁業の規模

日本の漁業は、長年にわたり食文化と経済に重要な役割を果たしてきましたが、近年、その規模は大きく変化しています。

日本の漁業は、資源の減少や従事者の高齢化など、多くの課題に直面する一方、水産養殖業の技術革新や新たな取り組みなどにより、持続可能な水産業への転換が図られつつあります。

漁業生産量の推移

1984年には、総漁獲量が約1,282万トンとピークに達したものの、その後は減少傾向が続き、2022年には約400万トンを下回りました。

特に、サバやカツオなどの主要魚種の漁獲量が大幅に減少しています。

漁業従事者の現状

漁業従事者の数も減少しています。

2008年には約22万人が漁業に従事していましたが、2022年には約12万人にまで減少し、そのうちの約40%が65歳以上となり、高齢化も進行しています。

漁業の経済規模

漁獲量の減少や市場価格の変動など、複数の要因が影響し、2020年の漁業生産金額は約1兆3,223億円で、前年から9.9%の減少が見られました。

水産養殖業の動向

水産養殖業は新たな展開を見せています。

特に、陸上での養殖が注目されており、2023年には陸上養殖の生産量が約2,250トンと、2019年の約1.9倍に増加しました。

2030年には、2019年比で約30倍に達するとの予測もあります。

漁業・水産養殖業の代表企業

マルハニチロ株式会社

マルハニチロは、日本を代表する総合水産食品企業で、漁業から養殖、加工、販売まで幅広く手掛けています。

2022年には三菱商事と共同でサーモンの陸上養殖事業会社「アトランド」を設立し、富山県での大規模な養殖施設の建設を進めています。

漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、冷凍食品・レトルト食品・缶詰・練り製品・化成品・飲料の製造・加工・販売、食肉・飼料原料の輸入、食肉製造・加工・販売

ニッスイ

ニッスイは、水産物の加工・販売を中心に、養殖事業やバイオテクノロジー分野にも進出しています。

特に、サーモンやマグロの養殖に注力し、高品質な水産物の安定供給を目指しています。

日本水産株式会社

世界中の水産資源へのアクセスを通じ、漁業、養殖生産、加工による「水産品」の販売、冷凍食品、缶詰、フィッシュソーセージ等の「食品」の製造販売、水産資源をベースとした「ファインケミカル事業」を事業の3つの柱としている。

株式会社極洋

極洋は、水産物の加工・販売を主力とし、冷凍食品や缶詰など多様な製品を展開しています。

また、養殖事業にも取り組み、持続可能な水産資源の利用を推進しています。

水産物の輸出入・加工・販売。農水産物を中心とする冷凍食品、缶詰・珍味類の製造・販売。鰹・鮪の漁獲及び養殖から加工・販売まで行う総合食品会社。

三井物産株式会社

三井物産は、総合商社として幅広い分野で事業を展開していますが、水産分野にも積極的に参入しています。

子会社のFRDジャパンを通じて、サーモントラウトの陸上養殖事業を展開し、独自の閉鎖循環式養殖システムを開発・運用しています。

三井物産株式会社

鉄鋼製品、金属資源、エネルギー、プロジェクト、モビリティ、化学品、食料、流通事業、ウェルネス事業、ICT事業、コーポレートディベロップメントの各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開

リージョナルフィッシュ株式会社

リージョナルフィッシュは、超高速の品種改良とスマート養殖技術を活用し、水産業界への貢献と地域での産業創出を目指すベンチャー企業です。

最新のバイオテクノロジーを駆使し、持続可能な養殖業の発展に寄与しています。

リージョナルフィッシュ株式会社

ゲノム編集技術を用いた品種改良、及び養殖自動化技術に係る研究
、開発、マーケティング、企画、販売。

漁業と水産養殖業の未来展望

漁業と水産養殖業の比較

漁業と水産養殖業は、共に水産物を供給し、食料確保にとって重要な産業ですが、それぞれに特徴と課題があります。

項目漁業水産養殖業
供給源天然資源人工的に管理された資源
規模の制約資源の枯渇や季節変動に依存養殖施設や管理技術に依存
環境影響過剰漁獲による資源減少の懸念水質汚染や過密養殖の問題
持続可能性持続可能な管理が必要環境負荷を抑える技術が重要

技術革新による変化

漁業と水産養殖業は、テクノロジーの進展によって新たな可能性が広がっています。

IoT(モノのインターネット)の活用

センサーを活用して、水質や魚の健康状態をリアルタイムでモニタリングするシステムが導入されています。

AI技術

魚群探知や養殖環境の最適化、餌の配分管理などにAIを活用し、生産効率が向上しています。

バイオテクノロジー

遺伝子編集を活用した魚の品種改良や病気に強い魚種の育成が進んでいます。

環境と共生する持続可能な取り組み

水産業界では、環境保全と資源の持続可能性を両立するための取り組みが増えています。

MSC(海洋管理協議会)認証

持続可能な漁業を認証する制度で、日本でも多くの漁業者が取得を目指しています。

ASC(養殖管理協議会)認証

持続可能な養殖業を認証する制度で、養殖業者の取り組みを国際的に評価しています。

海洋プラスチック対策

養殖場や漁場周辺の海洋ごみ削減に向けた取り組みが進められています。

日本の水産業が直面する未来の課題

後継者不足

漁業従事者の高齢化が進む中で、若い世代の参入が課題となっています。

長時間労働や危険な作業、低収益や初期投資の負担からの開放を目指し、政府や自治体の支援を前提にした若手支援プログラムの策定が期待されています。

グローバル競争

外国産の安価な水産物との競争が激化しており、日本国内市場のシェアが減少しています。

漁業の高収益化が実現できれば、国内での新規参入事業者も増え、国際的な競争力も高まると期待されています。

気候変動

海水温の上昇や異常気象が水産資源に与える影響が懸念されています。

業界の未来展望

地産地消の推進

地元の水産物を地元で消費して、地域経済の活性化と環境負荷の軽減を実現するような大きな取り組みに期待が集まっています。

輸出拡大

日本の高品質な水産物を海外市場に広げるなど、新たな収益源を開拓する動きが進んでいます。

スマート漁業・養殖業

AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ドローン、ロボット技術などの先端テクノロジーを活用した効率的な生産システムが普及しつつあり、持続可能な水産業の実現が目指されています。

まとめ

漁業と水産養殖業は、日本の食文化と経済に深く根付いた重要な産業です。

しかし、環境問題や資源管理、後継者不足など多くの課題を抱えています。

その解決には、技術革新や持続可能な運営の推進が必要です。

スマート漁業により、効率化と収益向上が実現でき、労働負荷が軽減されれば、若者の労働者が増え、業界全体が活性化します。

スマート漁業の実現には、初期投資や技術導入のハードルがありますが、官民の力を結集し、地域密着型の新たな漁業のかたちを模索していくと期待されています。

また、代表企業の取り組みや国際認証の取得などの動きが、日本の水産業の未来を切り拓く鍵となるでしょう。