危機管理広報とは
近年、企業経営が一瞬で危機的状況に陥るケースが増えてきました。
同時にその被害を最小限に抑えるための「危機管理広報」の重要性が再認識されています。
危機管理広報とは、企業の危機的状況発生時に被害を最小限に抑え、事態を収束に向かわせる業務全般を指します。
具体的な危機の種類は「災害・事故」「経営」「政治・経済・社会」のジャンルに大別されますが、近年ではSNSでの発信情報により、瞬時にブランド価値を棄損させる「経営」「政治・経済・社会」が身近なリスクとして認識されています。
危機管理広報では、トラブルの発生に備える「リスクマネジメント」、そしてトラブル発生後の「クライシスマネジメント」の両体制を構築していきます。
企業関連のリスク
災害・事故 | 台風・高潮 水害・洪水 竜巻・風災 地震・津波・噴火 落雷 豪雪 天候不良・異常気象 火災・爆発 停電 交通事故 航空機事故・列車事故 船舶事故 設備事故 労災事故 運搬中の事故 盗難 有害物質・危険物質の漏洩・バイオハザード ネットワークシステム(通信を含む)の故障 コンピュータウイルスの感染 コンピュータシステムの故障 サイバーテロ・ハッキングによるデータの改竄・搾取 コンピュータ・データの消滅・逸失 |
経営 | 知的財産権に関する紛争 監督官庁等に対する虚偽報告 環境規制強化 顧客からの賠償請求 環境賠償責任・環境規制違反 従業員からの賠償請求 環境汚染・油濁事故 株主代表訴訟 廃棄物処理・リサイクルにおける違反 デリバティブの失敗 製造物責任(PL) 与信管理の失敗・取引先(顧客)の倒産 リコール・欠陥製品 格付けの下落 差別(国籍・宗教・年齢・性) 株価の急激な変動 セクシャルハラスメント 新規事業・設備投資の失敗 労働争議・ストライキ 企業買収・合併・吸収の失敗 役員・社員による不正・不法行為 役員のスキャンダル 宣伝・広告の失敗 競合・顧客のグローバル化への対応失敗 社内不正(横領・贈賄・収賄) 過剰接待 集団離職 顧客対応の失敗 従業員の過労死・過労による自殺 製品開発の失敗 外国人不法就労 社内機密情報の漏洩 海外従業員の雇用調整 顧客・取引先情報の漏洩 海外駐在員・海外出張者の事故 取引先(顧客)の被災・事故 国内出張者の安全対策の失敗 納入業者・下請け業者の被災・事故・倒産 不正な利益供与 取引金融機関の被災・事故・倒産 独占禁止法違反・カルテル・談合 設備業者の被災・事故・倒産 契約紛争 経営層の執務不能 インサイダー取引 グループ会社の不祥事 プライバシー侵害 乱脈経営 粉飾決算 地域社会との関係悪化 巨額申告漏れ マスコミ対応の失敗 |
政治・経済・社会 | 法律・制度の急激な変化 国際社会の圧力(外圧) 貿易制限・通商問題 戦争・内乱・クーデター 景気変動・経済危機 為替・金利変動 原料・資材の高騰 市場ニーズの変化 テロ・破壊活動・襲撃・占拠 インターネットにおける批判・中傷 マスコミにおける批判・中傷 ボイコット・不買運動 暴力団・総会屋等による脅迫 風評 |
BCPとは
危機管理と類似した概念が「BCP(Business Continuity Plan)」で、「事業継続計画」と呼ばれます。
「災害・事故」「経営」「政治・経済・社会」のリスクが自社に直接的影響を与え、事業継続が困難になった場合を想定し、事前準備をしておく業務を指します。
BCPは主に事前準備を意味しますが、危機管理は危機発生後の事後対応を指す場合が多いでしょう。
BCPでは「人命」と「事業継続」が優先されます。
危機被害を最小限に食い止め、リスク状況下でも経営を継続できる準備をしておきます。
危機管理広報の重要性
インターネットの登場以来、流通する情報量は爆発的に増加しています。
特にSNSの普及により、誰でも、いつでも情報を発信できる環境が整ってきました。
これは企業広報にとってメリットである反面、極めて大きなリスクでもあるのです。
不正や不祥事は簡単に暴露され、あっという間に拡散されていきます。
企業は常にこのトラブルに備えておかなければいけなくなりました。
もし対応を間違えれば、商品の不買運動などの危険が高まり、経営に深刻なダメージを与えます。
しかし、このリスクに備えている企業はあまり多くありません。
現実には不祥事発覚後にその重大性に気づく企業がほとんどです。
危機対応の拙さから、企業が崩壊する事例も増えてきました。
企業がゴーイングコンサーンとして厳しい競争社会を生き抜くためには、危機管理をシステム化し、リスクを最小限に抑える努力を重ねていくことが不可欠なのです。
危機管理広報の役割
危機管理広報では「災害・事故」「経営」「政治・経済・社会」などのトラブル発生前の十分な準備が不可欠。
そして、トラブル発生後には被害を最小限に抑えることが求められます。
事前準備体制
天災はもちろん、サイバー攻撃や風評被害などは、突然襲いかかります。
事前準備がなければ、対応は後手に回り、経営に大ダメージを与えるでしょう。
危機管理広報とは、消防団の活動に似ています。
常に火災に備えておき、いざ火災が発生すれば素早く消火し、延焼を防ぐのです。
突然の危機対応のためには、事前に「対応方針」「社員の役割」などを明確にしておくことが大切。
日頃から危機発生時のシミュレーションを訓練するなど、危機意識を醸成しておきます。
情報開示体制
危機発生時には、スピーディーで正確な情報開示が不可欠です。
関連情報をいち早く収集して状況を把握。
現状の事実関係と今後の対応を明確に公表します。
危機管理広報では、初動が最重要です。
危機発生の事実を受け入れ、できるだけ早く正しい情報を開示できるよう行動します。
風評被害防止体制
情報開示後は、発信された情報の誤拡散をチェックします。
特にSNSではネガティブな情報ほど拡散されやすく、無用なレピュテーションの低下が懸念されます。
間違った情報発信があれば、すぐに訂正し、事実関係を軌道修正します。
正しい情報発信を繰り返すことで風評被害や重大なイメージダウンを防止します。
危機管理広報の業務内容
危機管理広報の業務内容は、想定外のトラブル対応がメインです。
通常のポジティブな広報PRとは異なるため、ややネガティブな業務に映るかもしれませんが、自社に与える影響は甚大です。
この対応次第では信頼回復が期待できますが、やり方を間違えれば取り返しのつかないイメージダウンを招きます。
危機管理広報の業務は主に「トラブル発生前業務」と「トラブル発生後業務」のふたつに分けて考えます。
トラブル発生前業務
最近では「個人情報漏洩」や「社員の不祥事」などが頻繁にニュースになります。
このような「どの企業にも起こりうるトラブル」への準備が危機管理広報の最初の仕事です。
まずは「トラブル発生時の責任者」「社員の役割」「メディア対応」「情報発信方法」「情報収集フロー」などの対応方針を決めておき、マニュアル化しておきます。
トラブルの内容と大きさ次第ではマスメディア対応が必要になります。
記者対応などの訓練もしておければベストです。
トラブル発生後業務
トラブル発生後は「情報開示のスピード」と「正確性」が求められます。
関係者からの情報収集で事実関係を把握し、対外的な対応をリスト化します。
準備しておいた危機管理マニュアルに従い対応すれば、ミスや漏れを防止できます。
情報開示後は、扱われている情報に事実誤認がないかをチェックします。
事実誤認があれば、再度訂正情報を発信します。
トラブル発生後業務では「スピード」「正確性」「誠実な態度」がポイントになります。
情報開示はスピード重視
危機管理広報で最重要なのは「スピーディーな情報開示」です。
遅くてもトラブル発生から1営業日(8時間程度)以内に最初の情報を発信します。
途中経過でも構わないので、とにかく情報開示を急ぎます。
情報開示の遅延は「不誠実で優柔不断な態度」との印象を与え、さらなるイメージダウンのリスクが高まります。
また、早急な情報開示には、SNSなどでの誤情報拡散を防ぐ意味もあります。
特にネガティブな情報は拡散されやすいため、致命的なダメージだけは防止します。
正確性で信頼を回復
危機管理広報のポイントのひとつは「企業の説明責任」です。
適宜正確な情報を発信することで信頼を回復していきます。
不祥事や事件・事故の場合、自社に都合の悪い事実を公表しなければいけないケースもありますが、嘘をつかず、できる限り事実を公開します。
事実未確認情報は、まずは調査中であることを伝え、判明次第、追加で情報開示する旨を発信します。
誠実な態度で臨む
情報開示に「嘘」や「逃げ」は厳禁。
常に誠実な態度で臨みます。
危機管理広報では、なにより「姿勢」が問われます。
事態を真摯に伝える気持ちで臨みましょう。
利害関係者だけではなく、情報に触れるすべての人に反感を持たれないよう十分に注意します。
メディア関係者から追及に腹を立てればマイナスイメージを与えます。
扇動されない態度が重要です。
危機管理の専門家と連携
トラブル発生時にダメージを最小化するには、専門家との連携が必須です。
具体的には、コンプライアンスに強い弁護士やPR会社などとの協業体制があれば、速やかな鎮火が実現できるでしょう。
特に弁護士と関係を深めておけば、日頃からトラブルの芽を摘むことができ、被害を未然に防ぐことができるでしょう。
潜在的リスクが増加する現在、コミュニケーションの専門家によるサポートは心強い味方になります。
危機管理マニュアル作成
危機の被害を最小化させる「危機管理マニュアル」の整備は、最低限のリスクマネジメントであり、企業には不可欠です。
リスクが顕在化する前に是非、危機管理マニュアルを整備してください。
危機管理マニュアルとは
危機管理マニュアルとは、事前にリスクの芽を摘むこと。
そして、生じてしまった危機は被害を最小限に収めること。
これを実践するための手引書です。
危機管理は「予防」と「対応」に大別されますが、特に対応が重要です。
危機発生後、速やかに適切な対応をしなければ、ダメージが拡大します。
「担当責任者」や「緊急事態対応体制」などを定めたマニュアルがあれば、迅速かつ適切な行動が促せます。
危機管理マニュアルを作成する目的
危機管理マニュアルを作成する目的は以下の通りです。
- 社内に自社を取り巻くリスクや危機管理体制を啓蒙する
- 危機管理の「目的」と「方針」を明示する
- 危機管理体制を明確にし、役割を決定する
- リスク発生時、迅速に対応できるようにする
- 緊急時対応に漏れがないようにチェックリストとして活用する
危機管理は発生の「前後」で考える
危機管理は、危機発生の前後に分けて考えます。
まずは危機が発生しないよう予防を強化します。
そして、危機発生後は被害を最小限に抑える対策をします。
予防のための対応を「リスクマネジメント」、危機発生後の対応を「クライシスマネジメント」と分けて考えます。
危機管理マニュアルも「事前」と「事後」を分けて構成します。
危機管理マニュアルの項目
危機管理マニュアルはできるだけシンプルにします。
必要な内容を絞り込み、多くてもA4用紙10枚程度にまとめます。
目的と方針
まず危機管理マニュアル作成の目的を明確にします。
具体的には「社員の安全確保」「二次被害対策」「被害の最小化」「風評被害の防止」などです。
次に方針も記載します。
危機発生時の行動、優先順位などを明記しておきます。
危機レベルの設定
危機レベルを設定しておき、重要度に応じて役職上位者が担当するようルール決めしておきます。
例えば「顧客からの重大なクレームの担当者は課長」とし、「商品の自主回収が必要な重大事案は取締役会」などのシナリオを想定し、被害予測と合わせ、対応を決めておきます。
危機発生時の初動
危機発生直後の初動を迅速にするために具体的な行動を定めておきます。
「危機発生直後の行動」「現状把握のために確認すべき項目」などから、「各役職者と責任権限」「プレスリリース配信手順」まで、仔細にルールを設定しておきます。
復旧対策
リスク発生前の状態に復旧させる取り組みも明確にしておきます。
災害の場合は「通信手段の復旧」「オフィス機能の回復」など、まずは従業員の安全と企業活動の再開を確保します。
また、最低限維持すべき業務などの事業活動レベルを各部署で定めておきます。
緊急連絡網
危機発生時の情報共有のために社内責任者だけでなく、取引先などの社外ステークホルダーの連絡先を一覧にしておきます。
危機管理マニュアルの作り方
危機の洗い出し
発生する可能性がある危機を洗い出します。
特にBtoC企業の場合は、相当幅広い危機発生が想定できるので、まずは制約なくイメージを広げます。
同時に想定しうる被害も把握できるようにします。
危機を洗い出す段階では、弁護士にも参加してもらい、幅広い知見を活用します。
危機発生時の対応を決める
洗い出した危機について、被害最小化や二次被害の防止に向けた対策を検討します。
危機管理PR会社の知見も利用します。
責任者の明確化
顧客対応はカスタマーサービス部門、取引先対応は営業部門など、主幹部署を決めておきます。
担当範囲を明確にしておけば、従業員の迅速な行動を促せます。
各自の責任を明示し、リスク回避や被害の最小化を目指します。
定期的な見直し
マニュアルは、作って終わりではありません。
いつか訪れるかもしれない危機に備えるため、定期的な改定が必須です。
組織変更や法改正などの影響から必ず年1回は見直します。
危機管理マニュアル作成の要点
難しくしない
危機対応の要諦はスピードです。
理解しづらいマニュアルでは緊急時に使い物になりません。
なるべく長文は避け、箇条書きにするなどの工夫をします。
現実的な内容にする
いざ危機になった際、本当に使える現実的な内容にします。
部署や役職により、取るべき行動が異なるので、誰に向けた内容なのかをわかりやすく表現します。
最悪の状況を想定する
「この程度で済むだろう」との楽観は危険です。
過去の事例にとらわれず、他社事例なども参考にして、最悪のケースを想定しておきます。
最悪の状況を想定しておけば、心構えができているため、冷静な対応が可能になります。
企業クリップの危機管理広報
弁護士との連携
コンプライアンス専門の弁護士と連携し、問題発生時に迅速な対応をします。
コンサルティング
問題を発生させないため、平時から危機の芽を摘むための予防措置を検討します。
企業每の危機発生リスクを分析し、不祥事が発生しない体制を整備します。
一方、危機発生時には、担当者と綿密に連携し、原因究明や事後対応をサポートします。
状況次第では、メディア対応やSNSの情報管理も対応します。
プレスリリース作成と配信
問題を早急に沈静化させるため、リリースを作成します。
自社のホームページやSNSで公表し、広く周知されるようサポートします。
また、テレビの報道番組や新聞、経済系の雑誌などにリリースをFAX(メール)送信し、マス対策も実施します。
危機管理マニュアルの作成
危機を発生させないために有効な方策、また、危機発生時に取るべき対応などをマニュアル化します。
個人情報の取り扱い、サーバー復旧の手順などから、問題発生時の事実確認方法から公表の仕方まで、想定される状況を危機レベルに合わせてマニュアル化し、従業員や取引先に配布できる状態にします。
必要に応じて、ホームページなどでも公表しておき、顧客の安心感や信頼性の醸成に役立てます。
また、危機管理マニュアルの内容含み、社員手帳にして従業員に配布するなど、「お題目」だけで終わらせない普及活動にも注力します。